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再会

頼まれごとがあって取引先の会社に出向いたときのこと。
「あいにくと○○は外出中(不在)です。」受付で応対に出てくれた男性がそう言った。
あら残念!でもまぁこの人に伝言お願いしておけばいいや。
初めての顔だけど新しい監督さんかな?
そう思いながら彼にひと通りの説明をして、お礼を言って帰ろうとしたそのときだ。
その男性が思いがけないことを切り出した。

「あの~、僕のことわかります?」

?????知り合いだったっけ?
驚いてその顔を見詰めてみたが、誰かなんてすぐには分からなかった。
からだ全体も眺めてみた。上背もあり、なかなかがっしりした体格だ。顎鬚を生やしてはいるが強面ではなく、瞳の奥が涼しげである。
何処で会っただろう?私の知り合いにはいないと思うけど・・・。

「ごめんなさい!どこかでお会いしていましたか?」

そう答えた私に、男性は、わずかに微笑んだような気がする。
「あっ、じゃあ僕の名詞持ってきますね!」
踵を返して、一旦奥の事務所に引っ込んだ。
しばらくして戻ってきた彼が差し出した名刺をみたときの、私の驚きといったらなかったと思う。今思い出しても噴出しそうになるくらい。

“え、え、え、え、えっ!?ケンヤぁぁぁ!?”

でも確かにそうだ。
そうなのだ。
「えっ、でも、あの!料理の道に進んだって聞いていたけど・・・?」
「そうなんです。だけどいまは辞めて、ここでお世話になっているんです。」
シェフから現場監督??
そんなことがあるなんて!!
あまりの驚きに、次に何を聞けばよいのか分からなくなって
「すっかりたくましくなって~!全然わからんかったわ。」
そんなありきたりの言い訳を二度も言ってしまったりした。
「だって僕もう三十ン歳ですよ。すっかりオジサンですよ~。」

“あんたがオジサンなら私はどうなるのよ!”


「お姉さんの名刺が置いてあったんです。」

「最初は、お姉さんとおんなじ名前やと思ったんやけど、お姉さんやということが分かって、まだ会っていないんやけどなって家でも話してたんです。」
「お姉さんて・・・」
「僕の家ではお姉さんはずーーっとお姉さんなんです。」
嬉しいと言えば嬉しいのだが、なんだか複雑。

それにしても・・・何度かお邪魔していた会社だったが全く知らなかった。
だけどケンヤは知っていたのだ。
いずれ私に出遭うと思っていたのだろうか。
でも彼にしたって、それがその日そのときだとは思いもしなっただろう。
私が扉を開けたとき、あれこれと商品説明をしているとき、私が考え込んでいるとき、どんな想いで見ていたのだろう?
走馬灯のように想い出が蘇ってきた。

***
まだ中学生だったケンヤの家庭教師。それが私とケンヤとの関係だった。
二年程は通っただろうか?勉強を教えるというよりは、いつもただ喋っていただけのように思う。学校の話、食べ物の話、漫画の話、内容はもうほとんど忘れてしまったが、お喋りなケンヤの聞き役、それが仕事。友達か仲のよい姉弟のような関係だった。
あっ、お姉さんか。
そうだ、家庭教師なのに先生とは終ぞ言われなかったぞ!(爆)
でも三年は、自分の卒論と重なったことと、頑張ればできる子なのに頑張らせてあげることができないことに負担を感じ、少し離れてしまった。
そんなすまない思いもあってずっと気にかかっていたのだけれど
まさか、こんな形で再会しようとは!

料理の道に進んだと聞いたときは、なるほどと思った。
とにかくその頃から味にうるさかった。
どこそこのお店がうまいだのまずいだのよく知っていたし、おやつに母親が出してくれるケーキの味にもうるさかった。
どこで働いているのか知る機会を得たら、行って驚かせてやろうと思っていた頃もあったのに、二十数年の歳月を経たのちに、逆に自分が驚かされることになろうとは!
全くもって人生は分からない。

***
差し出された名刺を挟んで、カウンター越しの会話はその後もしばらく続いていた。
でも後になって思い返してみると、肝心なことは何も聞かなかった、そんな気がするのだ。
長い長い年月の隔たりがあるのだから、それはそれで仕方のないことなのかもしれないけれど・・。
ただその日嬉しかったのは、引き返す車の中が、ほのぼのとしたやさしさでイッパイに包まれていたことだ。
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by uneme_tayuu | 2006-09-19 12:23 | | Comments(4)